sahy’s diary

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読書かんそうぶん:家康(安部龍太郎氏著) 自立篇

今回は 家康 自立篇 です。この本も薦められて読んだのですが、私の好みを的確についた本ばかり紹介されて…なんかこう……くやしい!

5巻からなる長編第一巻にあたり、家康19~31歳の頃の話になります。この時点での家康は理想主義の甘い若造といった描かれ方なので、自然な対比で脇役の魅力が強く感じられます。ダブル忍者ほんとうかっこいい。割かれているシーン的にはごくわずかですが、それにも関わらず存在が重い登誉上人やおばばさま(おばばさまなんてまともな会話シーンないです)の描き方なんかも流石です。

主軸が若き家康の成長のため家康をめぐる人間模様が大半なのは当然ですが、それを抜きにした場合、戦闘よりも経済の描写に重きを置いて描かれているのが特徴的。

経済の頂点を獲るために所領を広げ、所領を広げるために戦争に勝利し、勝利するために戦略を練り、戦略を練るために情報を得る…というように、情報がすべての起点になっています。「情報の王は世界の王(by田中ロミオ先生)」を地で行く流れ。

世のほとんどの人間は情報を軽視します(この時点で成功の確率はゼロに等しくなる)。しかし情報の恐ろしさは、その重要性を知った人間を「情報を活かせない、振り回される、持て余す」という罠に掛けてくる点です。どうぞ手に取ってくださいと向こうからやってくる何の価値もない情報を重要視して失敗すること、中途半端に何かを知ることがむしろ逆効果になり得ることなど、誰しもが人生で味わったことがあるでしょう。その罠を越えた先に辿り着いているかどうかで、人物から滲み出る格に差がでているように感じました。それも踏まえて先の二人の言葉を読むと、また違った深みがあるように思われます。

「 世の中はきつねとたぬきの化かしあい  欲ばしかいて罠にはまるな」

「――この世は広大無辺の仏国土の中の、けし粒ほどの存在にすぎぬ。そのけし粒の中で、我らは火花のように短い生を与えられているだけだ」

「大切なことは、そうした世界観を持ちつづけることだ。そうすれば得意の時に傲(おご)らず、失意の時に臆せず、平常心を保って物事に対処できるようになる。――」