sahy’s diary

好きなことを好きなように書いていきます

2020.01.20読書 蝦夷地別件

今回はこの本でございます。

蝦夷地別件(上・中・下) 著/船戸与一 小学館文庫

「山猫の夏」や「砂のクロニクル」などを書いた方です。今作の構成も砂のクロニクルと酷似しています。

混沌とした情勢の中で怪しく蠢く多くの者どもの姿と、どこへ向かうか定かにならないまま肥大していく謀略の渦が、次々と視点を切り替えながらじわじわと描かれているのがたまらなくよろしい。

インディアン嘘つかない的な我々の(私だけ?)原住民に対する素朴な思い込みを覆すような、アイヌ同士による謀略や仲違い、殺し合いが行われる生臭さは、これまた大好きな「ガダラの豚」(中島らも著)に通ずるところがあってなおよろしい。

これは好みの話ですが、下巻において登場人物の大半に始末をつけているのですが、徹底してはいるものの展開には若干の無理やり感が出てしまっているように感じました。この始末に下巻のほとんどを割いているため、個人的には圧倒的に下巻より上中巻が面白く感じます。

悪玉がのうのうとしているのはもやもやしてすっきりしないという声は多いでしょうから致し方なしというところもありましょう。あくまで個人的な好みであり、人物の変貌や時代の流れの描写に鬼気迫るものがあったのは言うまでもないところです。

そして気になるのは幕府のやり方。遠回しなやり方でなく松前藩を直接崩しにかかったほうが簡単確実ではなかろうか?松前藩がてっぺんからつま先まで一部の隙も無い有能な猛者揃いという描かれ方なら活路を他に求める流れも納得できますが、そうでなくたった一人の超有能な家臣が大奮闘する流れなので。あの人のお宅の警備ガバガバだしさっさと侵入して痕跡残さずお命頂戴すればよかったんちゃう?と思ってしまった。

わたくし自然な流れ重視派なので、本作に限らず、本筋のなかで自然に決着をつけられない人物がいるのであれば、フェードアウトして語られずじまいという方が納得できるのです。さすがに元凶や首謀者レベルが裁かれずというのは消化不良だな~と思いますが、悪事に手を染めた人間や邪悪、不快、卑怯さを見せた人間全てを展開を捻じ曲げてでも何が何でも仕置きするというのは首をひねってしまう。逆に、だからこそそういった人間全てを自然な流れでオシオキする奇跡のような展開ならば素晴らしく面白いと思うのです。

 

ラストダンジョンでサブキャラが雑に一人づつ散っていく展開は好きじゃないのだ。