sahy’s diary

好きなことを好きなように書いていきます

読書かんそうぶん4:ジョゼフ・フーシェ ある政治的人間の肖像

今日の一冊は ジョゼフ・フーシェ ある政治的人間の肖像 です。
シュテファン・ツワイクの著書の日本語訳版で、1979年刊行。この本は、ひっじょ~~~~に読みにくい。とにかく一文が長く、表現がまったく馴染みのないものばかりで輪をかけて読みづらくなっています(40年前の本なので仕方ないのですが)。
多少読みにくくとも本質的な面白さに変わりないですが、さすがにこれは勧めにくい…。(そうはいいつつも面白かったから記事書いちゃいますよ!)

フーシェフランス革命~ナポレオン体制終焉後くらいまで政治の舞台で権力をふるった男で、歴史に残る策略家といえる人物です。感情を表に出さず、虐殺もいとわぬ冷徹さを見せ、自分など無いようにひらひらと立場や意見を翻す男。それでいて何度追い詰められても権力の座へと舞い戻る不屈の精神をも併せ持つ男。そんな印象を受けます。

彼は国王殺しに加担し、恐怖政治を敷いたロベスピエールを失脚させ、皇帝ナポレオンの腹心として活躍・確固たる地位を築きつつも同時にナポレオンを追放すべく暗躍。最後はタレーランに権力の座を追い落とされ、追放されたまま生涯を終えたとあります。

特筆すべきは情報収集及び活用能力の際立った高さでしょう。警察機構を握ってからの跳梁すさまじく、フランス全土にわたる巨大情報網を確立し、国内において彼の知らぬことはないと言われたほど。皇帝ナポレオンですら私生活を丸裸にされており、公然と非難・侮辱することはあれ決して失墜させることはできなかったといいます。

そんな彼ですが意外な一面もあります。ことさら醜いと表現される妻を深く愛し、また我が子も同様に深く愛したのです。生涯愛人を持つようなことはなく、家庭を何よりも大事にしたといい、夫として・父としては完璧だったといえましょう。この一面を見ると、単純な悪人とも呼べぬような気さえする…人間とは測りづらいものです。

まったく根拠のない個人的な見解ですが、フーシェはフランスを追放されてから見る影もなく落ちぶれ歴史に忘却されたというツワイクの記述は事実と異なるんじゃないかな~などと思っております。フーシェは追放された後も隠然と力を保ち続け、何不自由なく穏やかな暮らしを送ったのではないか、と。そうでもなければ、こんな誰にとっても都合の悪い人物、真っ先に始末しますし、彼の魔手からタレーランだけが逃れられたとも考えづらい。もし彼が老境に差し掛かるにつれ権力に飽き平穏を望んだのならば、追放は願ってもないことで、内心ほくそえんでたんじゃなかろうかと。
ツワイクは権謀術数に長けた邪悪な主人公をもとにした著作を出版するにあたり、当時の読書家から良識を疑われるのではないかと不安を抱き、この邪悪な主人公が幸福のままに生涯を終えるのでなく、最終的に没落する様を描いて落としどころとした…なんて、ないかな。 ないか。
先にフーシェについて触れられた別の本を読んでいるため、その影響が強いだけともいう…。