sahy’s diary

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読書かんそうぶん2:チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷

今回はこの本、チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷 でございます。

塩野先生の書くヨーロッパの歴史小説は数冊読みましたが、本作が一番好みです。チェーザレは31歳で死ぬまでの短い時間で激動の人生を歩んでいるため、自然とテンポよく怒涛の展開が描かれることになるからでしょうか。

自らの野望のために実の弟を謀殺。都市の侵略・制圧を繰り返し領土を拡大し、権謀術数をめぐらせ一国の王の座にまで就いたその生き様は、すさまじいの一言。

君主論」で有名なマキャベリチェーザレの影響を強く受けていたことが記されており、彼をしてすばらしい勇猛さと力量を併せ持つと言わしめたとのこと。

策略に優れ軍事的・政治的才能を見せたチェーザレ。そんな彼を致命的に追い詰める結果となった行動は、病にかかり弱っていた時、絶対に信用すべきでない男に取引をもちかけ利用してしまったことと分析されています。

実際その通りなのですが、個人的にはドン・ミケーレと離散させられたことが大きかったのではと思います。忠義厚く、有能で、捕えられ拷問を受けても絶対にチェーザレを裏切らなかった男。最大の苦境にあっても、彼が共に居さえすればチェーザレはあのような場所で終わっていなかったのではないかと思います。

チェーザレの死後、生死不明のまま二度と歴史の表舞台に姿を現さなかったドン・ミケーレの存在は、物書きの皆様にとって大変ロマンを掻き立てられるものではないでしょうか。

枢機卿の息子にしてルネサンス時代のメフィストフェレスと呼ばれたというチェーザレ・ボルジア。野望に憑かれて破滅した男の、短くも冷酷で、優雅で、覇気に満ちた物語は胸躍ること間違いないでしょう。

 「あらゆることに気を配りながら、私は自分の時が来るのを待っている。」

訪れた自分の時を永遠に留めることができなかった彼はむしろファウストの方かもしれません。